映画【ペンギン・ハイウェイ】 感想

ペンギン・ハイウェイ

森見登美彦原作小説の劇場アニメ映画化【ペンギン・ハイウェイ】を見ました! 少年アオヤマ君の学校とお姉さんを中心とした箱庭的日常が不意に拡大していく描写や大人への半歩を見せてくれるような成長冒険譚が愛らしく、読後感のいいジュブナイル作品でした。その魅力をポイントを絞ってご紹介します。

魅力① 誰もが経験したことがある”アオヤマ君”

本作は大人びた少年・アオヤマ君。小学校4年生でありながら、頭がよくて探求心もあり、きっとすごい大人になると思い込んでいる(本当にそうかもしれないけど)ともすれば生意気な少年です。そんなアオヤマ君が憧れるのは大人の女性=お姉さん。年上の女性に憧れる大人びた少年、というのは男性であれば一度は通った事のある瞬間な気がします。それが小学生の時だったかはわかりませんが、自意識が広がった時にどこか自分は子供ではなく大人的な思考ができるとか、大人に強い憧れを持ってそうありたいと思った瞬間が少なからずあるのではないかと。この作品を見た時にどこか懐かしさを覚えるのは、もちろん子供の頃を思い出させる普遍的な小学校での描写や裏山探検などの背景的要素もあると思いますが、それ以上に男性には”アオヤマ君”だった瞬間があるからではないかと思います。そういう意味では男性の方がこの作品にハマる可能性は高いのかなーという印象です。

魅力② スタジオコロリドの描く爽やかなアニメーション

小説の世界を映像化したスタジオコロリド。素直な美しさと動きの気持ちよさの共存するアニメ映像になっています。アオヤマ君が生活する家や学校、裏山などの描写は非常にリアリティに溢れていますが、それと対比になるようにペンギンの異質さ、可愛らしさは際立っていますし、徐々におかしな世界へと変化していく映像はアニメ的な面白さに溢れていました。また、コロリドのこれまでの作品でも空を飛ぶシーンは勢い・スピード感がありアニメ的な面白さに溢れるシーンになっていましたが、本作でも非常に重要なシーンで空を飛ぶシーンがあり、これまで以上に美しく楽しい場面になっていました。アニメ的な面白さという点も注目ポイントかと思います。

魅力③ 夢か現か、最後まで分からないひと夏の冒険

突如現れたペンギン、そのカギを握るらしいお姉さん。裏山に出現した謎の物体。様々な不思議な出来事がアオヤマ君の住む郊外の町で起こります。しかし、それは本当に起こった事なのか、それともアオヤマ君が見ていた夢だったのか、最後までよく分かりません。現実感のないふわふわした世界で、ただ確かに間違いない事はアオヤマ君は冒険をして、少しだけ成長したという事だけです。ラストシーンでそのちょっとだけ成長しただろうアオヤマ君を見ることができます。でもこの物語の中で起こった事が何だったのかについては分からないままです。でもだからこその余韻なのではないかという風に思います。明確に答えがなくて、もしかしたら全部夢だったかもしれない、だけど最後に落ちていた”アイテム”は……色々と空想を巡らせる余地も十二分にあります。子供から思春期へ、あの一瞬にだけあるひと夏の成長、その尊さをギュッとパッケージングしたかのようなアニメ映画です。

いつか男の子だった人にこそ

間違いなくジュブナイルです。いつか男の子だった人には、どこかでアオヤマ君を懐かしく見つめる瞬間があるのではないか、という風に感じるアニメになっています。散りばめられた謎を気持ちよくすべて明確に答えとして渡してくれる、というような作品ではなく、それを期待するとちょっと違う印象になってしまうかもしれませんが、ある少年のひと夏の冒険と成長譚として見つめてみると何とも言えない懐かしい気持ちになる、そんな素敵なアニメーション作品だと思います。ぜひチェックしてみてください。

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貫田 雅剛

ラジオのパーソナリティー・プランナーやイラストレーターとして活動中。RCCラジオ・ラジプリズムの部長。ラジオのこぼれ話から、アニメのリアルタイム雑感、イラスト描いたりWeb作ったり、イベント考えてみたり、そんな色んな情報や、日々のあれこれなどを”なるべく”毎日更新したいと思います。