【語ってみた。】半分の月がのぼる空

作品概要

2003-2006年に発行された橋本紡(つむぐ)先生作のライトノベル作品。のちに「漫画・ドラマCD・アニメ・実写ドラマ・実写映画」の5分野で作品化されました。

あらすじ(公式サイトより引用)

肝炎を患って入院した戎崎裕一(えざきゆういち)は、退屈な入院生活に耐えかねて夜な夜な病院を抜け出しては、看護師の谷崎亜希子に怒られる日々を送っていた。そんなある日、裕一は抜け出しの黙認と引き換えに、同じ病院に入院していた秋庭里香(あきばりか)の話し相手になる取引を亜希子と結ぶ。
二人の距離は少しずつ近づいてゆき、里香はほとんど誰にも見せなかった笑顔を裕一に見せるようになる。ある日、里香は「自分が心臓の病気を患っており、もうすぐ死ぬ運命にあること」を裕一に告げる。裕一は戸惑いながらも、自分が里香を意識し始めていることに気づいていく。

この作品の魅力を、ポイントを絞って紹介します^^
ポイント①  どこまでもピュアな17歳の物語

病院の中で出会った2人の男女の物語。明確な恋物語で、ツンデレな里香の魅力は存分に展開されつつ、病気という事実も話が進むたびに出てきます。祐一は里香に惹かれていますし、里香も祐一の気持ちを受け入れて、徐々に笑顔を取り戻していきます。2人の関係はどこまでも純粋なもので、そのひたむきさや未熟さに、医師をはじめ大人たちは振り回される事もあるのですが、同時にその純粋さが大人たちの気持ちをも変えていくという物語になっています。シンプルに、好きな女の子のために頑張る男の子の話です。

ポイント② ファンタジーゼロのリアル指向

ライトノベルでは異例ともいえるファンタジー的な要素が一切ない作品であり、作者の橋本先生が一般文芸を書く流れを作った作品。ライトノベルらしさはそういう意味ではない作品ですが、だからこそ同ジャンルで非常に多くのファンをつかみ、アニメにとどまらずドラマや映画にもつながったのだろうと思います。

ポイント③  死ぬことを結末にしていない

本作は泣きゲーと呼ばれる00年代初頭に大きなブームとなった美少女ゲームジャンルの系統に近い作品だと感じます。加えて病気を抱えた男女の恋愛というと「世界の中心で愛を叫ぶ」などのヒットもありました。それらと比較される事も多いですが、本作が特徴的なのは、「死ぬ」事をエンディングにしていない事です。病気は進行していきます、そしていつか里香は死ぬのだろうと思います。だけど、いつ死ぬのかは分からない。分からないまま、2人が「選ぶ」事を中心にとらえているのが、「死」を結末に持ってくる作品とは一線を画していて、その読後感・終わり方がとても美しく「半月」を名作たらしめている理由だと思います。

★まとめ 死について精一杯正面から向き合った泣きゲータイプのライトノベルの傑作。

人はいつか死ぬという事を、しかし人は日々考える・向き合うことなく生きていると思います。そういう中で、死に向き合う少女との出会いが主人公の死生観を変えて、同時に読者の意識をも変えていく。その結論が「死」ではなく「死ぬまでどう生きるのか」というテーマになっている事が、この作品が何年たっても愛される理由だと思います。ぜひ見たことがない方は、ラノベの傑作に触れてみてください。

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貫田 雅剛

ラジオのパーソナリティー・プランナーやイラストレーターとして活動中。RCCラジオ・ラジプリズムの部長。ラジオのこぼれ話から、アニメのリアルタイム雑感、イラスト描いたりWeb作ったり、イベント考えてみたり、そんな色んな情報や、日々のあれこれなどを”なるべく”毎日更新したいと思います。